裏通りランコントル
もしかして、辿り着けたのだろうか。
確かにこのお屋敷と門には見覚えがあった。
それでも以前はオリに連れられるがままだったから、自信がない。似たようなお屋敷だったらどうしよう。
そもそも、わたしは何をしにきたんだっけ。
ああ、そうだ。
左手にあるこの紙袋を渡したくて。
それ以上のことは何も考えていなかった。
ここに辿り着ける確率なんて低かったし、2人に会える保証もなかった。
門の隅っこに置いておくのは駄目かな。邪魔にならないように。礼儀としてはよくないけれど。
でもこの雪で埋もれてしまうかな。気づいてもらえないかも。
誰かに盗られてしまってはいけないし、犬や猫にボロボロにされるかもしれない。
困った。
わたしの考えなしの行動が、こんなことになってしまった。
やっぱり引き返そうか。
2人のうちどちらかに偶然会えたときに返せば。いつになるかわからないけれど、常に持ち歩いて――
「おい。」
わたしの背中に凛とした声が届く。
鼓膜を揺らすその音には聞き覚えがあった。
「何してんだ?」
――…着物の人だ。
声を辿るように振り向いた先にはやっぱり彼がいた。
今日も着物を優雅に着こなしている。
白い世界の濃藍は、それはとても綺麗だった。