裏通りランコントル
おおきな手に引かれるがまま辿り着いたお屋敷の玄関。
彼は横開きの古い玄関扉をガラガラと開けて「オリ、」と呼んだ。
「おかえりなさい――……おや?」
どこからともなく現れたオリは、わたしたち2人を目に留めると意表を突かれたような顔をした。
それはそうだろう。
彼だけだと思っていたその後ろに、わたしが見え隠れしているのだから。
頭上にハテナマークを散らすオリのことを横目で確認した彼だったが、特に気にする様子もなく後ろで立ち尽くすわたしに視線を移した。
「猫を拾った」
何ともないようにオリに言い放つと、入れとわたしの背中を押す。
そのまま後ろ手で玄関の扉を閉めると、自身の髪や羽織についた水滴を軽く払った。
「タオルくれ」
「あ、はい。すぐに」
パタパタとスリッパを鳴らしてオリは廊下奥の角へ消えていく。
その背中をぼんやり見つめていたら、不意に彼の手がわたしの肩や腕についた水滴を同じように払った。
そのままその手が、わたしの頬に触れる。
視線が合う。
両手のひらでわたしの頬を包み込むと、右手の親指で横引きの線を描くようにこめかみまでスライドさせた。
「冷たいな。鼻も赤くなってる」
目尻が下がったその顔は、濡れた前髪が邪魔をしていて勿体無いなと思った。
だって、とても綺麗だと感じたから。