裏通りランコントル



「あー、つめてぇ」

「かなり降っていますね」

「ああ。最悪だ」



着物の彼はげんなりした様子で使用したタオルをポイッと投げた。
その行方を目で追うと、オリの手元に吸い寄せられるように落ちていった。



「また会えて光栄です。迷い猫さん」



視線をあげた先で、オリの眼鏡のフレームがきらりと光った。
以前会ったときにはなかったはずだが、相変わらず皺ひとつないスーツをすらりと着こなすその様にひどくマッチしている。

奥の瞳が鋭く見えて、再び来てしまったことを怒られるのかもと思わず肩をあげた。



「ようこそいらしゃいました」



予想に反して優しく微笑んだ目尻に、小さなほくろをひとつ見つけた。世間で涙ぼくろと言われるものだ。

迎え入れられたことと新たな発見が嬉しくて、わたしも思わず顔を綻ばせた。



「どうしてオリには懐くんだ?」



突然顔を掴まれて、ぐいっと少し雑に横を向かされた。犯人なんてすぐにわかる。

着物の彼だ。


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