裏通りランコントル
掴まれた頬に彼の指が食い込む。
痛くはないが、そのせいで酷い顔になっていることは安易に想像できた。
「屋敷に着くまでは俺に懐いていたのに」
まじまじと観察してくるのは、彼の癖なのだろうか。
以前も同じようなことをされた気がする。
その距離も、相変わらず息がかかりそうなほどに近い。
遠慮のない真っ直ぐな視線が痛い。
「そうやってすぐ威嚇をしてくる」
やめてほしいと目で訴えたわたしを、彼はどうやらそう捉えたらしい。
口端だけで笑う顔は苦笑いだと思ってもいいのだろうか。わたしの反応を愉しんでいるようにも見えるのだが。
こうも整った顔立ちでは表情が読み取りづらい。
「さっきは少し怯えたような顔だったな」
宙を仰ぎながら思い出すのは、先程タオルで拭いていたときのことだろう。わたしもつられて宙を仰いだ。
といっても仰いだところでそこには高い天井と、ここを照らす橙色のあたたかな照明しかないのだけれど。