裏通りランコントル
「ところで。」
彼はようやくわたしの頬からパッと手を離した。
着物の袖に手を入れ腕組みをすると、少し首を傾げるような仕草を見せる。
「なんであんなところにいたんだ?」
わたしより頭一つ分以上高い位置から見下ろしてくる視線に少したじろぐ。
責められているわけでもなく、彼はただ疑問に思っているのはわかっているけれど。
やっぱり彼の瞳は少し危険。
わたしの中の微かな本能が働いたのか。
彼との間に距離をつくろうと、半歩ほど後ろに下がったとき。
――カサリ。
ふと自身の手元から小さな音がした。
そしてようやくここに来た意味を思い出す。目的をすっかり忘れていたなんて、恥ずかしいやら情けないやら。
慌てて持っていた紙袋をずいっと彼の目の前に差し出す。
一体なんだ?と言いたげな表情をして紙袋を手に取ると早速中をのぞき見た。
「……マフラー?」
中を確認したあと紙袋からわたしに視線を移し、そう問うた彼にコクコクと頷いた。
「わざわざクリーニングに出したのか?これ」
その言葉にまたコクコクと頷くと、何がおかしかったのか、彼はハハッと声を上げて笑った。