裏通りランコントル



さて。
マフラーも無事に返したし、どうしようか。
このまま家に帰るか、はたまたどこかで時間を潰すか。


――そんなことを考えながら自身の左腕に付けていた女性物の時計を見ていたとき、ふと顔に影がかかった。

なんだと思い少しだけ顔を上げた先で、彼は身を乗り出し、不躾にわたしの顔を覗き込んでいた。

それにびっくりして思わずカラダを反ると、つるんと足先が滑った気がした。
玄関に足を踏み入れたときに一緒に入ってきた、またわたしたちに付いていて溶けた雪のせいで地面が濡れていたんだろう。



「―――っぶね」



慌てた声が聞こえた。
抱きとめるように腰に回されたおおきな手。

目の前に、端正な顔立ちがある。
黒髪はまだ少し濡れていて、覗く瞳から心配と少しばかりの動揺が混じっていた。


近い距離に、心臓が大きく跳ね上がった。



「大丈夫か」



誰の、せい、だと。

そう文句のひとつでも言いたくなったが、腰に回された手に意識が集中してしまって。


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