裏通りランコントル
「とりあえず、上がりませんか」
上がり框(まち)に居たオリが、遠慮がちに声を発した。
その言葉にハッと意識を戻しコクコクと勢いよく頷いたわたしは、気付かれないように彼と少しだけ距離をとる。
「どうぞ」
オリはそんなわたしに微笑んで、高級そうなスリッパを用意してくれた。
確か前にお邪魔したときもこうして同じようにそっと置いてくれたなあ。
――なんて。
考えているときにも、心臓がまだ、ドクドクと波打っているような感覚があったけれど。
「あー、寒ぃ。なんかあったかいもん淹れてくれ」
着物の袖が、視界の端で揺れた。
わたしがスリッパを履くより先に、ドカドカと音を鳴らす勢いで家にあがる彼。
何も気にしていないようなその自由奔放さに安心して、バレないようこっそりとため息を吐き出してから、ぶるりと大げさにカラダを震わせたその背中に続いた。