裏通りランコントル



「――――…おい。」



ったく聞いてんのか。


盛大な溜息とともにそんな呆れ声が聞こえたかと思うと、おもむろに顔を掴まれた。

その所為でタコみたいな口になったわたしを見てプッと吹き出すのは、着物の彼――エン。


なんとも愉快そうな顔をするから腹が立って手をバシバシと叩いてやると、「いてぇいてぇ」とさらにケラケラ笑った。



そうしてエンの大きな手が遠ざかる。
頬から離れたぬくもりがなくなって、なんだか少しだけ。



「なんだ?そんなに見つめて」



困ったように笑いながら傾けた顔に、さらりと流れる綺麗な黒髪。
そこから覗く瞳に、わたしの胸が一度大きく鳴った気がした。


そんなわけない。
何かを払うようにブンブンと首を振る。


そんなわたしの行動に何を勘違いしたのか、エンはそんなに否定しなくてもいいだろ、と。またおかしそうに笑う。


相好(そうごう)を崩したエンを見て、なんだかソワソワと落ち着かない気分になった。


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