裏通りランコントル
近い距離にたじろぐ。
どうしてこのひとは、いつも距離がこうも近いのだろう。
エンを遠ざけるため押し返そうと伸ばした手は、逆に取られてしまった。
「小せぇ手だなあ」
するり、と。
滑るように、なめらかに。
エンの、”男の人”の指先が、わたしの手を這う。
「手首なんか少しでも力を入れたら折れそうだ」
それがやけに官能的で、艶めいていて。恥ずかしくて思わず顔をそむける。
「こっち、向け」
――そんなこと、言われたって。
文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、ぐっと顎を持ち上げられた。
もうわたしに為す術はない。
黒髪も、茶色い瞳も、鼻筋も、薄い唇も。
至近距離で見るエンはやっぱり綺麗。
どんどん近くなるそれらに息を呑み、ぎゅうと強く目をつぶった。