裏通りランコントル
「そのくらいにしてあげてください」
はあ、と深い溜息まじりの声が聞こえた。
目をそろりと開いていくと、わたしとエンの間にオリの手が割り込んでいた。オリは、左手だけでマグカップの乗ったトレーを軽々と持っていた。
「邪魔するなよ」
「あなたは悪戯が過ぎます」
「かまってやってただけだ」
「やりすぎです」
わたしを置き去りにして、エンとオリの小競り合いが始まった。
それを繰り広げている間に力の弱まったエンの手からするりと自身の手が落ちる。
掴まれていた手首があつい。
その熱の隙間からドクン、ドクンと。波打つ音が鮮明に聞こえている気がした。
「つまらねぇ」なんて顔を顰(しか)めて呟いたエンは、一人掛けのソファーにどかっと腰を下ろすと胡坐をかき頬杖をつく。
いじけた小さな子どものようなその姿に微笑を浮かべると、それに気づいたふたりがじっとこちらを見ていた。
――しまった。つい笑ってしまった。
慌てて口許を隠したが遅かったようで。
エンは軽い舌打ちをしてさらにいじけてしまったし、オリはわたしに優しく微笑んだ。