裏通りランコントル
わたしが手を重ねたことに対してなのか、ほっとしたその様子になのかはわからないが、また少し顔を緩めた男性は、わたしの手を引いたまま大きな古民家風の門をくぐる。
門をくぐって右手には鯉でも泳いでそうな大きな池があり、そこに隣接する鹿威しがカコンと景気良く鳴った。
左手には広々とした庭園が広がっておりすべてを見渡すことはできなかったが、大きな岩や松の木など細部にまで上等な手入れを施してあることはひと目でわかった。
「客間までご案内いたしましょう」
玄関につくと手を離し靴を脱ぐように催促する男性は、木目調のラックからスリッパを一組出し、履きやすいよう律儀にもわたしの前にそっと置いた。とても履き心地の良いスリッパだった。
「お茶をご用意いたしますので少々お待ちください」
無駄のない動作に案内された部屋は洋室だった。
外観からは想像できないまるでモデルルームのようなその一室をぐるりと見回す。
フローリングには白い革張りのソファ。そのソファにはクッションが3つ。ライトグレーのラグ。
シンプルなブラックのガラステーブルには観葉植物が置かれていて、その緑色がよく映えていた。
髪の毛ひとつでも落としたら怒られそうな室内に少し気負いして息を吐いた。
どうしてわたしはここに来たんだっけ。
あの男性に手を差し出されて、引き寄せられるようにそこに自身の手を重ねた。
いや、その前にわたしは確か街の図書館に行くはずじゃなかったっけ――