裏通りランコントル
「ココアですが、特別なことはしていません」
カチャン、と。
オリはシンクにトレーを置いてこちらを振り返った。
ぼうっとしていたわたしに一度軽く首を傾げたけれど、特に気にする様子もなくしっかりと封をされたタッパーを食器棚から取り出す。
「砂糖と牛乳を混ぜるだけですよ」
鍋をコンロにセットして、火にかけよく練って、照りが出てきたら牛乳を加えて――…
手際の良さに、わたしは思わずオリのスーツの裾を掴む。そうして鍋の様子を覗き込むような姿勢をとった。
彼の手の中でそれは次々と色や形を変えるから。まるで魔法のようだと思った。
そんな様子が楽しくてワクワクして。
キラキラと目を輝かせながら鍋を見ていたが、オリはそんなわたしに一瞥(いちべつ)をくれるとコンロの火と動かす手を止めた。