裏通りランコントル
え?なに?
なんでやめたの?もう完成?
突然のそれにわたしは頭にハテナマークをたくさん散らしながら、隣に立つオリを見上げた。
ふ、と。
わたしの顔に影がかかる。
暗くなった視界で、微かに見えたオリの口許がゆるりと弧を描いた気がした。
「迷い猫さん、」――少し悪戯な吐息が、右耳の耳朶を掠める。
慣れないその感覚に少しだけ身をよじると、やんわりと掴まれた腕。そうしてやさしく自身の元へ、くっとわたしのことを引っ張ると静かに囁く。
「私にあまり気を許しすぎるのもよくないですよ」
甘美な声色に、背中をぞわぞわと何かが這い上がるような。
思わず突き放すように距離をとると、わたしのその反応を見てオリはくすりとおもしろそうに声を漏らした。
「――なんて。冗談です」
もしかしたらオリは、一筋縄ではいかない相手かもしれない。
エンのときとはちがう音色の警報音が、脳内で忙(せわ)しなく鳴っていた。