裏通りランコントル
「ローズティーをご用意いたしました」
いい香り。
静かに注がれる黄金色からは上品な香りがした。
女性に人気で、美容と健康に良いらしくリラックス効果があるそうだ。
そう教えてくれた男性はわたしに飲むようカップの乗ったソーサーを無言で手渡す。
それに軽く頭を下げて自身の鼻のあたりまで持ち上げると香りを堪能した。
やはりとてもいい香りがしてそれだけでもなんだか落ち着いた気分になったが、一口含むとさらにほうっと息を吐いた。
わたしの様子を見ていた男性は嬉しそうにニコリと笑い、もう一つ準備していたカップにも同じようにティーを注いだ。
「飲みますか?」
「せっかくだからもらおうか」
着物姿の彼は未だにこめかみにペンを当て考えているようだったが、そう声を掛けられてウンウンと頷くとわたしの斜め左側、上座にあった一人用のソファにどかっと腰を掛けた。
スーツの男性はすぐに用意したソーサーとカップを置き会釈をすると、着物姿の彼とわたしの間に控えるようにして立つ。
「美味しいですか?」
その様子をぼうっと眺めていたわたしにちろりと視線を寄越した男性はそう尋ねてきた。
わたしが大きくひとつ頷くとまた嬉しそうに笑い、「おかわりは自由ですよ」と悪戯に人差し指を口に当てた。