裏通りランコントル
「甘いものが食いたい」
怖がらせていると気がついたのか、ただ興味がなくなっただけなのか。
オリにそう言って、彼はようやくわたしから離れてソファに深く沈む。
それを確認してわたしはなんだか喉が張り付いているような乾きを覚えた。
多少なりとも緊張したのだろう。
少し冷めてしまったティーをゴクゴク飲むとまたほっと息を吐いた。
「確かクッキーがあったはずです。すぐに」
お持ちします、の言葉はなかったが会釈をしたオリはまたどこかへ消えていった。多分キッチンに行ったのだろう。
足早なその後ろ姿を縋るような目で見るわたしに、着物姿の彼はちょっと複雑な顔をして笑った。
自分のペットが他人にいやに懐いている様がいじらしいとでもいうような、そんな顔。
「クッキー、好きか?」
機嫌を伺うような声色でそう問うてくる彼に、わたしは振り向いて大きく3回、勢い良く頷いた。それに彼はくつくつと笑う。
何が面白いのかさっぱりわからなかったが、彼の笑い声は不思議と不快ではなかった。
「お待たせしました」
戻ってきたオリのその手元には浅いバスケットがあった。
レース布が敷いてあってその上には色とりどりのクッキーが並べられている。
プレーン、ココア、ストロベリー、抹茶、チョコチップ――…。他にも種類はありそうだが、食べてみないとわからなそうだ。