裏通りランコントル
目をキラキラと輝かせるわたしに彼はまた面白そうに笑い、「好きなだけ食え」と優しく言った。
その声に振り向いて、わたしは彼をじいと見つめる。
「なんだ?」
彼とクッキーを交互に見つめるわたしに一瞬キョトンとした彼だったが、「ああ、」と何か答えに辿り着いたような返事をしてクッキーをひとつ口に運んだ。
「毒味したぞ。どれも美味しい」
そう言って両手を低く挙げ、自身の身体になんの異常もないことを示した。
その姿に安心したわたしは先程彼が食べた多分プレーン味であろうそのひとつを、ぱくり。口内に程良い甘さが広がり、絶品だった。
顔を綻ばせるわたしを見ていた彼にオリは「なんだか楽しそうですね?」とぽつり呟く。
「オリが野良猫を飼い慣らしたい気持ちがわかったよ」
オリにだけ聞こえるようにひっそりと言い、悪戯にオリを見上げた彼だったが「しかし、」と言葉を続けた。
「紅茶はすぐ飲んだのにクッキーはやけに警戒したな」
発したそれは決して大きなものではなかったが、迷い猫にも届く程度の大きさだった。
いや、聞こえるようわざとなのだろう。
やっぱりというか、迷い猫である彼女はぴたりとその動きを止めた。
「なんだ。毒でも盛られたことがあるのか」
落ち着いた彼の声のトーンはやけに確信めいたものだった。
探るような目を向けられて、どくり、どくりと心臓が嫌な音を立て始める。
そんなことない、と言い返そうと思ったが喉の奥がヒュウと鳴って言葉にならない。
これじゃあ肯定しているようなものではないか。