いつかまた、月の綺麗な夜に
卒業式の前日、もう自由登校になっていて来る必要のない学校の図書室の床に、わたしは力なく座り込む。
低いところから見上げた空には、昼間だったけど薄っすらと、白い月が浮かんでいた。
「……」
あのときの友坂くんの言葉の意味を、今ようやくわたしは知る。
月が綺麗ですね。
それは、特別な言葉だった。
あのとき、唐突に囁かれた言葉と、そのあとの寂しそうな顔を思い出す。
やっとその意味を知る。
友坂くんがわたしに薦めてくれた小説の中には、三冊共に、それの意味を記した恋愛模様があった。
「もっと早く……」
読んでおけば良かった。
友坂くんといるときは、彼との交流を密かに勝手に逢瀬なんだと幸せを感じるのに忙しかった。
友坂くんといないときは、彼のことを想うのに忙しかった。
……それらも、ただの言い訳なんだけど……。
ただ、わたしが読まなかったという事実が忌々しく残る。
卒業式が終われば、友坂くんは余裕で合格した、わたしでも知ってる有名な大学に通うため、この土地を離れる。
ああそれよりも……きっと、もう、なにもかもが遅くて。