サイドキック
「――――香弥ちゃん……、」
彼女の悲しげな声音は嫌なくらい鼓膜の最奥まで届いていた。
けれど、それに対して顔を上げて笑みを浮かべられるほど。
――私はまだ、大人に成り切れていない。
と、そのとき。
微かな電子音と共に部屋に置かれている大型テレビの電源がつき、その瞬間に映り込んだ男の顔を見て目を見張った。
"結城《ゆうき》興業の社長さん!本年度の抱負をお聞かせ願えますか?"
"なんだ、分かり切った質問をするじゃないか"
「あらあら、お父さんったら。録画予約じゃなくて視聴予約しちゃったのかしら?相変わらず機械音痴なんだから」
「―――…、……」
口許に隻手を宛がい、上品な笑みを零す彼女に反論する気は更々無かった。
お母さんは信じているから。この男の本性を知っても尚、信じ切っているから。
ギリッと奥歯を噛み締めて大きな画面を睨み付けた。
肩書だけの父なんて、消えてしまえばいい。