サイドキック







「あらあら、結城さんの。今日は社長来られないの?」

「いつもお世話になっております。父は急用で、申し訳御座いません」

「いいのよ、この間はどうもって伝えてもらえるかしら。明日あたりに何か手配しておくわね」

「お気遣いなく。勿論父には伝えさせていただきます」



時折私も知っている取引先の方に呼び止められたりもした。

その度に当たり障りのない―――それでいて一抹の綻びも無い笑みを顔に刻み込んで返答する。







今日この会場にいる全ての人を割合として表すならば、味方が20%に中立が30%――――加えて敵がその他の約半数。詰まるところ凡そ50%の人間が敵社ということ。

何故そんなにも好ましくない状況なのか。その答えは至って単純だ。













『御集りの皆様、本日はお越しいただき誠に有難うございます。御足労をお掛け致しました』



不意に会場中に響き渡った女性によるアナウンス。

ワイングラスに注がれたアルコールが煌びやかな光を反射させるのを瞳に映したまま、私は。










『――――ただ今より我が社の新作披露宴を開催致したいと存じます。その前に、次期代表より御挨拶を。暫し壇上に御注視くださると幸いで御座います』


会場一帯を照らしていたライトが一斉に方向を違え、アナウンス通りに一段高くなったそこを集中的に照らしだす。








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