サイドキック
「(―――んで、なんで、なんっで…!)」
なんでそこにお前が居るんだよ。
――…改めて親父に聞いたときに思い出したんだ。小宮山ってどこかで聞いたことがあったから。
娘とは言え経営に携わることなんて滅多に無い。
其れで無くても私は政略結婚でいずれ引き渡される身。父から私に教えることなんて、何も無いのだろう。
"komiyama"
日本有数の巨大企業の内のひとつ。
少し経済に長けている人ならば、ライバル社は"結城興業"だと即答するだろう。
親父はメディアへの取材でも隠すこと無く暴露しているくらいだから。
なあヒロヤ、お前は。どういうつもりで俺に近付いてきたんだよ。
信じていいのか?信じても、いいの?――――…一体、なにを。
あの日のキスの理由も、ゼンブぜんぶ全部。
教えてくれよ、お願いだから。
真
実
と
衝
撃
と
信
頼
の
崩
壊
「――――クッソ…!」
繋がらない電話に隠すこと無く舌打ち混じりの声を洩らす。
俺の姿を認めて最大限に瞳を見開いた彼女に、今すぐ会いたいのに。
挨拶を終えたらユウキの姿はもう無くて。
数多に及ぶ制止の声を振り切ったまま、道端でタクシーを捕まえた俺の脳はあのときの映像を何度も何度も繰り返し再生させる。
距離を隔てた場所から見た彼女は、息を呑むほど綺麗だった。
いつもなら絶対に選ばないだろうワンピースからは細く白い脚が覗いていて。
それを口角上げながら見詰める男どもを殴り飛ばしたい衝動に駆られた。
焦燥と嫉妬の狭間で揺れ動く俺は、胸中を揺るがすもうひとつの感情に蓋をした。
―――本当は少しだけ期待していたんだ。ユウキじゃないんじゃないかって。
そんな一抹の希望を打ち砕かれた今、感じたくない絶望感に心は少しずつ浸食されていく。