サイドキック
「―――――ユウキ……、」
そんな私の様子を見て一瞬目を見張ったヒロヤは、中腰だった体勢からそのまま腰を落として此方との距離を詰めてくる。
そう、いつかの、あの日みたいに。
「……ッ」
不意に脳裏を掠めるのはあのときの出来事に他ならなくて。
顔を傾けて妖艶に瞳を細めるヒロヤが、あの日のヒロヤと重なる。重なる、重なる。
「――――……悪い」
ヒロヤを拒否したのは、これが初めてだった。
顔を横に逸らした私の横顔に突き刺さる視線。
戯れとかじゃ無くて。
私の零した謝罪は小さすぎてヒロヤに届いたのかどうか分からない。
でも、ここは余りに静かで。
静かすぎて、今はそれが逆に少し悲しさを煽る。
「………、似合ってる」
「え……?」
「そのドレスも、髪も」
無かったことにしてくれた男は、……私よりもずっと大人だった。
今し方訪れていた不穏な気配なんてまるで嘘のように、へらりと笑みを浮かべたヒロヤはいつもの調子でそう零す。
砂浜に腰を下ろす私の隣に座り込んだ男は、無邪気とも取れる表情でそこに寝転んでいて。
一度躊躇うように視線をさ迷わせた私は、奴に倣って背中を砂のそこにくっ付けた。