サイドキック
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それは何時《いつ》かの、ヒロヤと私の姿。
『戻ったー』
『……、』
『ユウキ?上がったんですけど、空いたんですけど』
『おー』
『って全然聞いてねぇだろ!シャワー使わねぇの?』
『んー、あっちで浴びるからいい』
そう言いつつ私が指差したのは所謂総長部屋で。
まるで無気力な私を横目で捉えたヒロヤはその瞳を細めると、徐に開いた口から音を零していく。
『お前っていっつもそっちだよな』
『あぁ?そうでもねぇだろ』
『家にも帰ってねーみてぇだし。ってそれは関係ねぇか』
独白のようにそう洩らした男に私は言葉を返さなかった。
毎日のように一緒に居る。けれど、互いの事情は深く知らない。知ろうとしては、いけない。
暗黙のうちに敷かれたルールのようなそれ。
此処に身を置く人間はある意味はみ出し者だらけだ。この場に居る時点で自らを取り巻く環境で何かがあったことは明白で、何かから逃れようとしていることも明確で。
『―――まぁ、単刀直入に言えば』
鼓膜を揺らしたのは妖艶とも取れる声音。
しかしながら私の顔付きは無表情のそれから微動だにしなかった。
ただ、薄らと細めた瞳を流すように横目でヒロヤを一瞥する。
『俺はお前のカラダちゃーんと見たことねぇんだけど』
にやりと口角を上げて言葉を零す男のなんと愉しげなことか。
隠すこと無く溜め息を吐き出した私は、この頃まだ黒かった髪を片手で掻き上げて顔ごと振り向く。不本意ながら、だけれど。