サイドキック
ザァ、と。
ただ静かに頬を撫ぜる風に瞳を一度しっかり閉じて、暫しの間呼吸を止めた。
「(―――……言ってしまった)」
後悔は無い。
別にヒロヤを咎めたくて口にした言葉では無い。
再会してから今までの行動の所以を問うことで私に何か形として影響があるかと言ったら、決してそういう訳じゃない。
「(ただ、)」
もしも"そうだ"と。
"結城"という目的を抱えて私に近付いたとコイツが認めるのならば、此方にも考えがある。
―――――そのことを脳裏に浮かべるだけでズキリと音を立てる心臓なんて、見て見ぬ振りで問題扱いしなかった。
「ユウキ、」
「二択だ。イエスかノーか」
「………、……」
前触れなく立ち上がった私は腕組みをして、尚も腰を下ろすヒロヤを見下ろした。
瞬きをする度に視界の端に映るマスカラ。
裸足の所為で直に感触が伝わる砂の粒。
片脚を立ててその膝に腕を乗せる男は、先程とは打って変わって強気な姿勢を貫く私を暫し呆然と見詰めていた。
そして数秒か、将又それ以上か。
私がこの表情を違えないことを悟った男は、うすらと眉尻を下げて小さい息を吐き出す。
その瞬間に風に揺れた黒髪を見ても、もう昔の派手な色を思い出すことは無かった。
―――大丈夫、大丈夫だから
ヒロヤがあの頃と違う姿で良かったかもしれない。
もしも昔と同じ恰好で、同じ表情で"イエス"だと言われたら。
私はきっと、二度と、立ち直れない。