サイドキック
―――――――――――…
「女だって分かった途端これかよ。………油断し過ぎなんだよクソったれ」
崩れ落ちるように傾いた男の身体を両腕で食い止める。
それを眉根を寄せた眼で見詰めたまま、チッと舌打ちを零した私は忌々しい気持ちを吐き出すように溜め息をひとつ。
砂の上に寝かせたヒロヤは瞳を閉じて意識を手放している。
そうさせたのは他でもない私自身だ。
「―――……ほんと、バカ」
何やってるんだか。
真っ直ぐに瞳を向けてくるヒロヤの視線を受け止められなくて実力行使に出るなんて、自分が餓鬼過ぎて笑える。
眉間に指先を添えて深く息を吐き出した。
眼下に居るヒロヤの髪が、漆黒のそれが風にさらりと揺れているのを認めた。
――――………どうせこれで最後になるなら、
「(少しくらい、)」
夢を見せてくれてもいいだろ?……ヒロヤ。
そっと腰を屈めて落とした唇から冷たい温度が伝わってきた。
昔から変わらないムスクの香りが柔に鼻腔を擽ってきて。
触れるだけのキスは、私の中の物悲しさを助長させる。
「――……っ……」
少しだけ混じる塩っぽさは、自らの涙に起因しているなんて思いもしなかった。