サイドキック
―――――――――――…
「―――、………」
うすらと瞼を持ち上げ、暫し思案に耽る。
視線だけを巡らせるように部屋の中へと走らせ、黒いインテリアに囲まれたそこを見て細い溜め息を吐き出した。
何の変哲も無い自分の部屋。
眉間に添えた指先でぎゅっと自らの肌を押し込む。
もうすっかり痛みの無い鳩尾に舌打ちを零したい衝動に駆られた。
どうせなら、永遠に残るイタミを残してくれたら良かったものを。
バッと勢いよく布団を捲り上げ、昨日と変わらずスーツに身を包む自分を視界に映しては思い出す。
昨日俺が、ユウキに向けて放った言葉を。
あのときはベストだと思えて口にした台詞も、一晩挿むとそうでも無いような気がして。
もっと上手く伝えられたら良かった。
でも、無理だった。
そこまで思考が至らなかった。
「(しょうがねぇ、)」
俺にできることを、俺なりのやり方で。
呑まれそうな黒。
そんな吐き気がするほど高級なスーツのジャケットを手にして向かった先のドアノブに指先を添える。
胸中で数えたターニングポイント。
この扉を開けてするべきことは分かっている。余所見をしている暇は無い。