サイドキック
「撮影はお控えください!いずれ社長より正式な発表がありますので―――あ、そこ、撮らないで!」
運転手として此処まで送り届けてくれた男性がそう声を張り上げるも、内心無理だろうと冷静に考える私が居た。
「(こういう騒ぎにしたくないなら、)」
普通事前に大々的な発表なんてしないじゃないか。
そうさせたのは他でもない社長その人だ。これらは全てアノヒトの思惑に沿う形で実現している。
「お嬢様どうぞ、こちらへ」
「ありがとう」
僅かな通り道を作ってくれた男性に向けた言葉は感謝のそれだけれど、決して心の籠ったものでは無くて。
カツンカツン、固い地面に着く度にハイヒールが鳴く。
その音が重なっていく毎に私の中の感情が殺されていく。
――――カツンカツン、
結城ゆうきユウキ結城ゆうきユウキ。
何処に居てもそればかり。
正直吐き気さえ催すほどだ。
歩く度に波を打つヘアーを耳にかけて歩を進めた。
後戻りなんて出来ない。もうこんな場所まで来てしまった。
ホテルの中に入る瞬間、かねてより私の中に存在していたスイッチがカチリと傾いた気がした。
私は結城香弥。生き方は変えられない。
――――アノヒトに敷かれたレールから道を違えることなんて、絶対に許されないのだ。