サイドキック






――――――――――――…



「結城様、お待ちしておりました。御召し物はどちらになさいますか?」

「お任せします」

「は、はい!畏まりました」





豪華にあしらわれたホテルの長廊下を突き進んでいく。

その先にあった小さめの――とは言っても他の部屋に比べて、だけれど――部屋の扉をノックして入り込めば、既に待機していた女性が愛想の好い笑みを浮かべて言葉を落とした。




それに起伏の欠けた声色でそう告げた私を見て、一度大きく瞳を見開いた彼女は聊か焦燥の色を孕んだ表情で声を出すと部屋の奥に行ってしまった。









そんな彼女の華奢な後ろ姿を見送ってから。

ふうと細い息を吐き出した私は身体を反転させて腕を組み、顔を上に向けて瞳を閉じきる。

指先に引っ掛けたサングラスのふちをゆらゆら揺らして。



「(―――……、……)」








心の内で考えるべきことが何なのか。

それすらも、分からなくなってくる。





今から数時間も経てば、私の婚約話は飛ぶように広まっていくだろう。

それに伴ってまたメディアにアノヒトが顔を出す。それはもう御満悦の表情で。




分かっていた筈のこと。

こうすることで少しでもお母さんに対して孝行になるのなら、と。











―――――私の選択は、間違っていない筈なのだから悩む必要なんてないのに、どうして。







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