サイドキック
――――――――――――…
「―――そして、旦那様の御挨拶を承ります。その次にアナウンスが入りますので、お嬢様はその際に壇上にお願い致します」
「わかりました」
「お嬢様あの………顔色が、」
「大丈夫です」
此方を覗き込みながら言葉を落とす彼女は、長らく結城家に使用人として勤めている人で。
遠慮がちに音を重ねる彼女に対し、間髪を容れずぴしゃりと切り返した私に直ぐさま口を噤んでしまった。
それを見て「またやってしまった」と思うが、言い直すための適切な言葉が分からない。
暫く視線を泳がせた末に彼女の様子を窺うと下がっていた眉尻が元の位置に落ち着いていたので、取り敢えず小さい息を吐き出した私は。
「―――…ごめんなさい」
「い、いえ!お嬢様、どうか顔をお上げください…!」
本当に嫌になる。
度重なる自己嫌悪に起因しているのは心の根底に潜む、この婚約への反発心だった。
けれどそれを私が自覚することは無い。
――――否、どうにかしてそうでは無いと思い込んでいたのかもしれない。
かねてより取り決められていたパーティの開始時刻は、刻々と近付いてきていて。
無意識の内に時計に走らせる視線。
その度に洩れ出す溜め息。
まるで私に早く腹を括れと、そう急かしてきているようだった。