サイドキック







「この先段差がございますので、お気を付けください」

「はい」

「ただ今壇上では旦那様が御挨拶を。お嬢様はその後に流れるアナウンスで御紹介されたのち、壇上にて一言頂戴する手筈となっております」

「分かりました」



慣れないドレス仕様のワンピース。

その裾を指先で持ち上げながら、私の一歩先を進む彼女の言葉を聞いていた。







頭の中で既に覚え込んである台詞を反芻させる。

失敗は許されない。

今回のこの催しは婚約披露宴でもあるけれど、正式に"私"を御披露目する目的も兼ねている。



客として招かれているのはほぼ全て、"結城"と繋がりのある人間だから。














私の婚約なんて高が知れている。

最早国内の同業市場で"結城"に及ぶ企業は"komiyama"を措いて他に無いと言っても過言ではない。



今回の婚約の相手は近年成長の著しい一企業。

逆に言えば、その一言に尽きるのだ。

可能性のある若芽は早急に取り込むが善。





―――――実質的に市場を掌握するのは私の父親だから。


見る目明らかな売り手寡占。此処に居る人間全てがアノヒトに取り入る目的を達成させるため躍起になっている。








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