サイドキック
「お嬢様、そろそろです」
「――…わかりました」
「段差にお気を付けて、どうぞ」
見慣れた彼女が示した先を視線で辿ると、ぽつりぽつりと明かりの灯った通路が視界に映り込んだ。
――――これを進んだ先にあるのはきっと、
「お気を付けて…!」
彼女の心配さを孕んだ声音を背に、足を踏み出した私は壇上を目指し進んでいく。
この間のパーティーよりも繊細につくり込まれたと判るワンピースの裾を攫み、マスカラの乗った睫毛を上下させて。
アイラインで縁取られた目元で瞬きを落としつつ脇目も振らずに突き進む。
両耳に下げた長めのピアスが脚を繰り出す度に揺れ動く。
辿り着いた舞台袖。
カツン、控えめに鳴ったヒールに進行役の男性が振り向く。
そして視線が合ったのと同時に、私は薄く頷いて再度歩を進め始めた。
『―――引き続きまして結城社長の御令嬢、香弥様に御言葉を賜りたく存じます!』
目が眩むほどの照明に瞳を細めた。
多方から届く光を受けて、胸元に飾られたジュエリーネックレスが煌びやかに其れを反射させる。
横目で視線を流し込めば、会場に居る全ての人たちが"私"を注視していると気付いた。