サイドキック
act.4
―――13時半。
ヒロヤとの待ち合わせまであと三十分と迫る中、漸くバイト先から抜け出せた私は必死に走るスピードを上げていた。
大学にいる間という約束で許可を貰ったバイト勤務。
バイト先の人たち含め、大学の友人ですら誰一人として私の親を知る人物は居ない。
それが居心地好くもあり、しかしながら逆に卒業してしまったら接点を持つことも許されないだろう事実が悲しくもある。
目の前に迫ったのは待ち合わせのファミレス。
そのガラス張りの扉を開ける前にバッグの底へと沈ませていた爽やかなフレグランスを取り出し、適当に自らの身体に振りまいていく。
―――と、そのとき。
「お姉さん、綺麗だね」
「………」
「ちょっとー、シカトしないでよ」
隣から何やら男の声がする。
誰かナンパされているのか、なんて余り深く考えずに視線を上げればガッチリと合わさったそれに目を見開いた。