サイドキック
今まで嗅いだどの香りよりも強く感じるそれは、私がこの男の腕の中にいることを指し示していて。
段々と現状を理解していくにつれて、ぞわりと肌が粟立つ。
信じられない、信じられない、信じられない、信じられない……!
「――――○ッ△×☆□◇…!!!???」
声にならない叫びを上げた私は、周りの目も憚らず長身の男――ヒロヤを投げ飛ばした。
「ッてぇ!!」
「信じらんねぇ…!何しやがんだこのクソ野郎が!」
「―――、は?」
私は気付いていなかった。
自分が今女の恰好をしていることも、それにも関らずヒロヤに向けて男の声音で言葉を吐き出したことも。
背中まで伸びた深みのあるブラウンの髪が、風に乗ってふわりと巻き上がる。
「テメェは俺のダチだろ!ナンパしてんじゃねぇよ!!」
「――お前……、」
「ユウキ、なのか?」
私が自らの失敗を認識するまで、大凡0.5秒。