サイドキック
「私のようになりたい、ですか」
「……、はい」
「逆手に取るようで少し申し訳ないのですが」
そこまで言葉を続けた稜さんは少しだけ瞳を細めると、再度その口許に弧を描く。
私は優しげな表情を浮かべる彼女を数多く知ってきたつもりだ。
しかしながら、このときに稜さんがその顔に刻んでいた笑みは今までの比ではないくらいに。
それこそ穏やかなもので、それこそ、優しさに溢れるものだったから。
「私はずっと、ユウキさんのようになりたいと思ってましたよ」
嗚呼、この人は凄い人だと。
どこか達観していて、でもきちんと現実に向き合っている。
尚も自然の色合いだとわかる黒髪は、背中の中頃まで伸びていて。
初めて見たときから印象として根深く私の脳に残っている二重は、昔と変わらず彼女の面持ちの一部として存在していた。
年下だけれど、そう思えない。
稜さんと会うときにいつも感じていたこの安心感は、どこか私が自らの母に求めるモノと酷似しているようだった。