サイドキック
act.19
暫く浸っていた回想から意識を現在へと、引き上げた。
視界を占めるのは温かみのあるマンションの室内。それは即ち、稜さんと昴さんの部屋を示していて。
「ユウキさん」
「……あ、」
「暫く引っこんでてごめんなさい。洗濯とかしてたらこんな時間に…、」
「わ、私こそ手伝いもせずごめんなさい!」
酷く似合っていたエプロンを脱ぎながら、苦笑まじりに言葉を音にした稜さん。
そんな彼女に慌てて向き合うなり羞恥に頬が染まった。居候のくせに恥ずかしい…!
「い、いえいえいえ!見られて恥ずかしいものもあるし、いいんですよ!気にしないで、ね?」
「で、でも……」
「ていうか」
そこでずい、っと。
身を乗り出すように私との距離を詰めた稜さんからは柔に良い香りが漂う。
そんな彼女を目を丸くしながら見つめていると。
「やっと"私"って言ってくれましたね。相変わらず"俺"なんて言うから、ちょっと悲しくなってたんですよ、私」
「…………あ、」
「無意識だったのでしょう?ふふ、その意気です!」
パァッと花咲くような笑みを零した彼女を見て思い出すのは、やはり、何て言うか母親で。
折角ずっと準備してくれていたあの披露宴から逃げてきたことを思うと、少なからず母に対して罪悪感が募ったりもしたけれど。
「……―――稜さん、ありがとうございます」
この場にこうして一緒に居てくれるのが、他の誰でもない稜さんで本当に良かったと。そう、実感した。