サイドキック
「あの頃からユウキさんとヒロヤさんだけは、違いました」
入口付近に辿り着く。
僅かな動作音を響かせて開いた自動ドアを潜るようにデパートの中に入ると、温度調節された風が柔に頬桁を掠めた。
「私とヒロヤ、ですか?」
「はい。あの頃のユウキさんはヒロヤさんに引っ張られて、色んなことをしてたじゃないですか。でも、だんだん日数を跨いでいく内にそれは違うって気付いたんです」
意外だった。どこが、と問われると返答に詰まるけれど、でも。
今までそんなことを口にする人はいなかったし、何より私自身でさえずっとそう思っていたから。
思わず目を瞬かせて小柄な彼女に視線をおとした。
大きな二重の瞳と視線が絡むと、アイラインぎりぎりで揃えられた彼女の前髪がさらり、揺れる。
「ヒロヤさん。いつも、どんなときでもユウキさんを見て、考えて行動してました」
「――――……、……ッ」
「ユウキさんの表情が曇ったときは外に連れ出したり、あまり深く考えさせないように色々なことを口にして小突いたりして。昔は単純に友情のなせる業だと思ってたんですけど」
「その上をいく感情がないと、なかなか他人にそこまでできませんよ」
時間が、止まった気がした。