サイドキック







「で、でも………」


微かに震える唇をぎゅっと引き寄せ、声にまで伝染してしまわないように。

強く瞼を閉じてから気付くのは、私にもこんな人間的な感情が渦巻いていたこと。



知ってる、知ってるよ。だってずっと近くで見てきた。

学校でできるような友だちとは違う。一番強い部分で繋がっていながら、時期さえ終えてしまえばもう会うこともない。


――――そう、思ってたんだ。今まではずっと。







距離が一番近かったのは私だって、知ってる。

でも私は、"あいつ"を取り巻く環境には近づけない。

ヒロヤ自身の好物とか癖とか、仕草とかは知っていても。




「私は、知らなかった。あいつの家が"komiyama"だってことも、それがウチと敵同士の間柄だってことも」







知ったときに胸を巣食った感情は、"悲しみ"。

もしかしたら再会したときから騙されていたのかもしれない。どんな経緯でそうなったのかは分からないけれど、でも。


騙されてた、裏切られた、なんて。

本当かどうかも分からないそれに気付いて一番最初に抱いた感情は、"怒り"じゃなくて"悲しみ"だった。







「………いまこうして私がここにいることが正解なのかも、分からないんです」




信じていいのか、そんなことも。

状況だけで考えるならきっと大半の人間は『信じられない』とか『裏切られてる』とか。


そんなことを思ったり、決定づけたりするのだろう。




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