サイドキック
「―――…ホテルでヒロヤと会う直前も、同じようなことがあったんです」
「え…?例の披露宴、ですか?」
「はい」
まだ記憶に新しい、あの場面。
眼下に広がる沢山の招待客を見下ろしながら挨拶を口にしようとした瞬間の、停電。あの、ざわめき。
「ただの偶然だと、いいんですけど」
そんな言葉を口にしながらも内心では、警戒の線を強めていた。
ショートの明るい髪色でボブのウィッグを被る私は、きっとこれ以上ないくらい険しい表情で佇んでいたんだと思う。
そんな此方を見上げるように視線を向けていた稜さんは、心配さを拭えない面持ちで沈黙を貫いていた。
二人でピタリと肩を並べるように待機する。
そんな中、不意に鼓膜を叩いたアナウンスの声音に顔を上げたのは私たちだけではなくて。
『お客様にお知らせ致します。本日は御利用いただきまして誠に有難うございます、大変ご迷惑をお掛けしております。停電についてですが、原因をつきとめ次第すぐに復旧いたしますので、今しばらく――――ブツッ』
不自然なところで途絶えたアナウンスに、周囲の喧騒は更にざわめきの色を濃くした。