サイドキック
デパートの中を力の限り疾走する。
場所は化粧室近くの細い通り道。少し視線を逸らせば『関係者以外立ち入り禁止』と記されたプレートが点在していることに気付く。
「(っ、しま…!)」
その隙に奴は行動に出た。それを目の当たりにした私は文字通り目を丸くする。
あいつが駆け込んだのは男子トイレで。未だ停電のせいで混乱の渦中にあるにしろ、普通の一般客も数多く利用するその場所に少しだけ躊躇ってしまう。
それにしてもヤツの考えが分からない。
私に自分を追わせるためにこんな行動をしているんじゃないのか?
だとしたらどうしてトイレになんて――――、
「(……中にはたしか…)」
脳裏を掠めた一筋の思考。もしもあいつが本当に私を撒くためにこの行動を取ったのなら、確実に読みが外れたことになる。
一か八か。賭けに出ることに決めた私は、一度眉根をぎゅっと寄せると一歩を踏み出す。
向かった先は―――女子トイレ。
今度こそ躊躇いなくその空間に足を踏み入れる。清掃が行き届いていることが窺えるその場所を暫し見つめ、ぐるりと視線を巡らせていく。