サイドキック
『―――――……、ヒロヤ……』
ふとした刹那に揺れた瞳は、濁ったそれではなくいつも通りのこいつの漆黒のものだった。
呆然と俺を見上げるユウキを目にして口から洩れ出たのは安堵の息。
ふー、と。細く吐き出した俺は今し方つかみ上げていたこいつの腕を解放してやる。
大きすぎて、零れてしまいそうなユウキの瞳が所在なくさ迷う。
その視線が俺の背後にも向かっていることから、きっと俺の後ろには処理を終えた後輩たちが居るんだろうと予測した。
―――予測したところで、振り返ることはしなかった。
一分一秒でも長く、やっと。やっと"ニンゲン"に戻ったこいつを視界にとどめておきたかったから。
『………―――悪い……』
か細くて、小さすぎて。そんな言葉を吐き出したユウキは心底弱っているようで、『戻るぞ、サツきてんだ』と言葉をおとした俺はその肩を引っ張り上げる。
それにすら素直に従うこいつを見るのなんて、珍しすぎてむしろ不気味だったりする。
俺の片腕にすっぽりおさまってしまうユウキの痩躯。
頭ひとつぶん下にあるこいつに視線を落として、それから何食わぬ面持ちで視線を前方へと戻した。