サイドキック
別にヒロヤと私はそういう関係にある訳じゃない。だけれど、それを口にすることすら許されない雰囲気に口を噤まざるを得なかった。
「―――俺を殺せば、それで気が済むのか」
「いや。ただ殺すだけじゃダメだねぇ」
じわりと焦燥が滲む。狂気の沙汰にあてられそうになる。
一歩、相手の男が距離を縮めてきた。それを拒むように私は一歩後退する。
「てめぇにゃ、『いっそ殺してくれ』って言いたくなるくらい苦しんでもらわねぇと」
殺すのはそれからだ、と。酷く愉快そうに口角あげて不気味な笑みを貼り付けて私を見遣る。
特段焦る必要もなかった。別に、今までだって何人もの人間に恨みを向けられたことを考えれば珍しいことでも無かった。
―――ただ、
「…………っ」
その、一見「ヒロヤなんじゃないか」と思ってしまうほど酷似した容貌が、私を根幹からぐらぐらと揺らしてくる。
この男はここで私にそういう仕打ちをするつもりだろうか。
いずれにせよ、しっかりしろ自分。顔が同じなだけだ。あとは全部違う、あいつはヒロヤじゃない。
「―――――いくぜぇ?」
耳朶をベットリと塗りたくるような不快な声音が、躊躇いなく始まりを告げた。