サイドキック
と、そのとき。
「やめろよー。俺は女を虐める趣味じゃねぇんだ」
「………ヒロヤ、」
「あーあーあー辛気臭ぇ」
見た目は完全にチャラ男。それは昔から全く変わっていない。
促されて視線を上げた私の目に映った奴は、気怠げに肩をまわすと再度此方に向き直る。
「俺が言いたいのはソコじゃねぇんだ」
「……は?」
「やーっぱ気付いてねぇか、この鈍感マシーンが」
呆れ返った声音に乗せられた台詞が此方を貶しているように思えて仕方がない。
眉根をギュッと寄せて長身の男を睨み上げるが、「恐かねぇんだよそんなモン」と瞬時に突っ込まれてしまう。
「……おかしいな。現役のときはコレだけで逃げる連中も居たのに」
「そりゃお前、相手が俺だからだろ」
そこまで口にした男は「そうじゃなくて」と仕切り直すと、又もや特大の溜め息を吐き出してから。
「―――じゃあお前、あれだろ。結局俺は女のお前に一回も勝てなかったってことだ」
「性別なんか関係ねぇだろ」
「綺麗事だろ、実際はハンデばっかの筈なんだって」