サイドキック
あの男はそう言った。確かにそう言ったんだ。
それを考えてみれば早々に合点がいく。
「(……全く)」
舐められてるんだか買い被られてるんだか。縛られてもいない自らの手足をそっと動かしてみる。うん、なんとかイケそう。
爆破に巻き込まれても生きているなんて、運がいいというか……どんな超人だ、私は。
大方、あの男は今頃モニタールームにでも居て悠長に腰を下ろしているのだろう。
こうして私が目覚めて、行動を起こすことすら予測して。だから見張りがいないのか……ほんと、性格悪い。
手のひらに塗れていた血は乾ききっていて、動かすたびにパキパキと突っ張る感覚をおぼえる。
横に置かれていた機材に手を添えて立ち上がれば、やはり鋭い痛みが全身を容赦なく走り抜けた。
「―――……、ッ」
泣き言なんて死んでも言ってやらない。あの男の思惑に乗ってたまるか。絶対に、負けない。
ショートパンツから覗く脚はタイツに包まれたまま、傷口があちこちに点在していて。
パンプスはやっぱり、あの場所に落としてきたみたいだ。ということは逃げるにしても、裸足で走らなければ。
――――ビリッ
タイツだと滑って走りづらいから。思い切り爪を立てて伝線させ、その綻びから切り裂いた。