サイドキック
立ちあがった衝撃で再び血を流し始めた傷口に、破いたタイツを乱雑に絡ませてキツく縛る。
目が覚めてからずっと耳鳴りが酷い。………さっきの爆破で、鼓膜がヘンになっているのかも。爆創って言うんだっけ、こういうの。
軽く息を吐いてから前を見据えた。
頼れるのは自分だけだ。絶対に逃げきる。私は今、こういう問題を起こしたら駄目だ。
脳裏をちらつく母の顔。それは悲しみに染まったもので、思い浮かべるだけで謝罪の言葉が洩れそうになる。
あのときは、思わずヒロヤに付いて逃げてきてしまったけれど―――……目が覚めた。何してたんだろう、私。
逃げられたらちゃんと、家に帰る。それでお母さんに謝ろう。
私がするべきことは彼女の笑顔をまもること。それを壊すようなことは、もう絶対にしちゃいけない。
「…………」
だからこんなところで、くたばる訳にはいかないんだ。
* * *
「やっとか」
とある部屋の一角で、モニターに目を向ける男はニヒルな笑みを貼り付けて呟きを洩らした。
その視線の先には、液晶画面に映し出される彼女の姿。
ウィッグはずれ、服はボロボロで血に塗れている。負傷していることは簡潔明瞭に他ならない。
そんな彼女が脚を引きずりながら行動を起こしたことで、男の口許には更に深い笑みが飾られる。