サイドキック
しかしながら、そんな私の願いは虚しく打ち砕かれることになる。
「――――いたぞ、あそこだ!」
誰かの野太い声音が鼓膜に絡みつく。厭に鼓動が加速していく。
みなが視線を寄越す前に、私は激痛さえも抑えこんで走り出していた。
すぐ背後で聞こえる、バタバタと忙しない跫音の数々。
それを極力耳にしないようにスピードを速めながら、馬鹿みたいに必死で脚を交差させていく。
なにを考える余裕もなかった。
体力の低下と痛みの限界すらも超えたことで、信じられないくらい大粒の汗が滲んでいく。
床に爪先をつけて体重をかける度にズキリと抉られるような痛みに襲われる。
"聖龍"にいた頃だって、それなりに重傷を負ったことはあった。それこそ数えきれないくらい。
でも、いつだって独りじゃなかったから。仲間がずっと居てくれたから。
傷を負うことに慣れている筈の私が、どうしてこんなにもこの状況に追い込まれているのか。
それはきっと、孤独を忘れてしまったからだ。
抗争になったときだって、ちょっとした騒動が乱闘に発展したときだって。
周りには家族よりも大事な奴らが沢山いた。守ろうとして躍起になった。
私はただ、自分を守ることに慣れていないだけだったのかもしれない。