サイドキック
「いたぞ、ここ―――」
「チッ」
「カハァッ……!」
腕を引っ張られるように後方に引きずり込まれたから、ほぼ反射的に相手の男を投げ飛ばしてしまった。
それが沈黙を喧騒へと塗り替え、静かだった筈のこのフロアは忙しない足音に呑まれていく。
各階のフロアに先回りされてたってことか。
油断した。そこまで想像が至ってなかった。
若干開けた廊下に身を乗り出し、向こうの様子を窺ってみる。
私を見付けた男が来たのは、別の廊下だったみたいで。この廊下を挿んでひとつ向こうのところ。
どうにか建物の外に出られる通路はないか。
そんな思いを抱えながら非常通路を探す私のところへ、待ってくれる筈もない黒服の男たちが次々に押し寄せてくる。
「―――ぐはっ……!」
「(……くそっ、)」
これじゃキリがない。隙だらけで向かってくる男の腹部に思い切り引いた拳を埋め、瞬間的に突き飛ばす。
拳を振るうことで改めて感じる痛み。そういえば、腕にも幾つか破片がのめり込んでいた。
刹那的に襲ってくる激痛に耐え忍ぶようにギュッと眉間にシワを刻み、薄く息を吐き出して黒服連中に対処していく。