サイドキック
思考を巡らす余裕すらなくて。
ただ向かってくる男たちを蹴散らすように、闇雲に拳をねじ込んでいく。
積み重なっていく連中。それに比例するように、段々と霞んでいく視界からは視力が消えていく。
「(―――……やばい、また倒れ――)」
ハッ、と。小さい息をこぼして目を伏せようとした、その瞬間だった。
―――――ガンッ!!!
鼓膜を突き破る勢いで飛び込んできた、なにかと器材がぶつかる音。
温度の消えていく腹部にまわされた、温かい人肌。屈強な腕。
「ユウキ」
嗚呼、それ。その声。ずっと聞きたかった。
その唯一無二の声音で、私のことを呼んで欲しくて。
気付けば至近距離にヒロヤの満面が映り込む。
本物だって分かる。あの男じゃなくて、今ここに居るのは紛れもないヒロヤ自身だった。
「……ヒロ、ヤ…」
情けない声。馬鹿みたいだ。
目の前にいるのがヒロヤだって分かったらもう、気力だけで動かしていた身体からどんどん力が抜けていく。
安心感に包まれて瞼さえもおちてくる。
最後に一度、唇に微かな熱が触れた気がした。
「………悪い……、ごめんな」
苦し紛れにそう吐き出されたときにはもう既に、私は意識を手放していた。