サイドキック
act.25
* * *
遠くない過去に経験したばかりの感覚だった。
渦巻く暗闇に引っ張られて、呑みこまれる。ふと気付いたときには既に全身が鉛のように重くなっていて、次の瞬間には全身を傷が一斉に刺し始める。
薄らと瞼を持ち上げながら、コホッと詰まりきった息を吐き出した。
「――――………、」
此処は、どこだろう。薄暗い場所。
ぼやける視界に映るのはコンクリートの壁ばかり。
段々と覚醒していく脳を、頭を抱えるようにして身を起こしてみる。
――――と、
「どうだ?目が覚めたか、総長サン」
「―――………ッ、!」
「んな警戒すんなよ。傷付くねぇ」
見上げた先にあったのはニセモノの男の顔だったから。驚き一色に顔を染めた私は目を見開き、次の瞬間には眉間にシワを寄せていく。
あれ、なんかさっき―――意識を失う直前に。
ヒロヤに、本物のヒロヤに会った気がするのだけれど。それは気の所為だったのだろうか。
余りにこの現実から目を逸らしたくて、まさかこの男と見間違ってしまったのだろうか。
もしそうなら、私は私を心底蔑視する―――。