サイドキック
当然の報いだろうか。ならば私が、逃げることなんて許されない。
それ以前に、もう立つことも出来ないのだからこんな思考自体が横車を押すようなものだ。
「―――……ンじゃ、遠慮なく――」
思い切り瞼を閉じて、顔を俯ける。
肩に男の手が触れた気がする。声なんて死んでも出してやらない。泣き叫んでもやらない。
こいつの思う通りになんて、絶対にしてやらない。
―――と、その瞬間だった。
ガッシャァアアアン!と大仰な破壊音が鼓膜を大幅に揺るがす。
思わず固く下を向いていた顔を上げ、視界に映り込んできた光景に瞳を限界まで見開いた。
「………あーあーあー、ザーンネン」
「、……!」
微笑さえ含んだようにおとされたニセモノ男の台詞なんて、全く耳に入ってくることはなく。
ただ私は、現状を理解するべく脳をぐるぐると巡らすだけ。
いや、本当は分かってはいるんだ。ただ、信じられないだけ。
―――……信じられないくらい嬉しさが込み上げてくる、たったそれだけのことだ。
「ユウキ」
肩に鉄パイプを背負った男はチャコールグレイのスーツ姿のまま、黒髪を揺らして真直ぐに私を見据えていた。
その耳に飾られたピアスが、僅かな光を拾って微かに反射し煌めく。
本物のヒロヤを視線で捉えた瞬間、何故かどうしようもなく泣きたくなった。