サイドキック
この場所の入口を突き破る際に使ったらしい鉄パイプを乱雑に転がしたヒロヤは、「あー…」と唸りをあげるのと同時にニセモノ男に視線をずらす。そして、再度私へ。
「………ヤられてねぇ、よな」
「危なかったけど」
「なら良かった」
ニヤリとプレイボーイさながらの笑みで端整な顔を飾ったヒロヤは、次の瞬間には眼光を鋭く尖らせて男を一瞥すると。
「もうちょいで俺、殺人やってムショぶち込まれてたかもしんねぇ」
怠そうに一度肩をまわすと、笑み孕んだ声音でそうおとす。
一見冗談とも取れるその台詞。しかしながら、その瞳が強い感情によって滾っていることが窺えて私は言葉を返せなかった。
「へー…、よくあの場所から出られたモンだな」
「てめぇの幼稚な考えが俺に通用すると思ってんの?針金でちょちょいのちょい、よ」
「………」
「つかそのツラ、まじでヤメろよ。鏡見てるみてーで胸糞悪ィんだけど」
段々と曇っていく、というか。機嫌を損ねていくニセモノ男を心底嫌そうに見つめ、言葉をおとしていくヒロヤ。
図太い神経は相変わらず健在しているらしく。
相手の返答さえも待つ気は更々ないのか、言いたいことをストレートに告げるヤツの口は止まる所を知らない。
「ま、香弥ちゃんにかかれば見分けるなんて容易いコトみたいですけどねぇ」
「………っ」
「あ。赤くなったー」