サイドキック
* * *
焦燥ばかりを浮かばせて足を後退させる正体不明の男を、逃さないようにジっと見つめていた。
こいつの口から飛び出してきた、サトルの名前。それに込められた感情が一際なにかに塗れていることが窺えて、このまま等閑にする訳にはいかないと思った。
―――小宮山智を、俺の兄を。
こいつはどこで知って、兄貴とどういう関係だったのか。
抱え込むユウキの瞳が疑問で満ちていたことは知っていた。だけれど、正直それに答えを返してやる余裕なんて今の俺にはなくて。
ただ、この男を追い詰めれば何かしらの答えを得ることができると―――漠然と、そんな思いばかりが胸中を埋め尽くしていたから。
「アンタさ、サトルとどういう関係?」
「―――……、……」
「シラきっても無駄だから。さっきサトルの名を最初に出したのは、俺じゃなくてテメェなんだよ」
なんで、揺れる。先ほどまで怨恨に塗れていた筈のその瞳が深い悲しみの色に染まるのを認め、気付かない内に俺の眉間には更に多くのシワが刻み込まれる。
オカシイ。なにが可笑しいって、それさえ分かりゃ苦労も何もねぇんだけど。
この男を見ていると、胸の深いところで小さな蟠りが膨張し、確かなしこりとして留まるような。
上手く言えねぇけど、そんな違和感を覚えちまって。